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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)975号 判決 1997年2月27日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自一二七四万六三八八円及びこれに対する平成五年四月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、自動車を運転して信号待ちのため停車中であった原告が、後方から進行してきた被告村上拓一(以下「被告村上」という。)が運転する普通乗用自動車に衝突され負傷したとして、被告村上に対しては民法七〇九条に基き、右車両の所有者である被告日本タクシー株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、平成五年四月二七日午後三時三〇分ころ、普通貨物自動車(奈良四五そ七六七九、以下「原告車両」という。)を運転し、大阪市北区西天満四丁目一五番一〇号先路上において、信号待ちのため停止中、後方から進行して来た被告村上の運転する普通乗用自動車(なにわ五五う六一九〇、以下「被告車両」という。)に衝突された(以下「本件事故」という。)。

2  本件事故は、被告村上が、脇見による前方不注視のため、対面する信号機の赤色表示及びこれに従って停止していた原告車両に気づかず漫然進行した過失により発生したものである。

3  被告会社は、本件事故当時、被告車両を所有し自己のために運行の用に供していた。

二  争点

1  原告の後遺障害

(原告の主張)

原告は、本件事故によって頸部・腰部捻挫の傷害を受けたが、左腕を九〇度以上には上に上げられない状態で、常時頸部痛、腰部痛に悩まされ、両掌に異常に発汗し続けるという頑固な神経症状を残して症状が固定した。右は少なくとも自賠法施行令二条別表障害別等級表所定の一二級に該当する後遺障害である。

(被告らの主張)

本件事故による衝撃は極めて軽微なものであったから、これにより原告に傷害が生じたとは考えにくい。仮に、原告に傷害が生じたとしても、極めて軽微なものにとどまるというべきであり、原告の主張するような後遺障害が生じる余地はない。

2  原告の損害

第三当裁判所の判断

一  争点1(後遺障害)について

甲第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証の二、第一一号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、運送業を営み、原告車両で配達を行っている際に本件事故に遭ったこと、原告車両は本件事故により停止中後方から追突を受け約一・八メートル前方に移動したこと、原告は本件事故後救急車で病院に搬送されたが、問診を受け首と腰に湿布薬を張ってもらい、首にネックカラーを装着する程度の簡単な治療を受けたのみで、本件事故当日は被告村上に原告車両を運転してもらって自宅に帰ったこと、原告は、本件事故の翌日及び翌々日は仕事に出かげ、平成五年四月三〇日になって森田整形外科医院で診察を受けたが、その際原告の左肩に若干の痺れと痛みがあり、腰部に圧痛があったものの、イートン、スパーリング、ジャクソン、下肢伸展挙上の各テストの結果は異常がなく、反射、知覚にも異常がなく、同医院では原告に安静及び頸部、腰部へのコルセットの着用を指示したこと、また、原告は同年五月七日に同医院で二度目の診察を受け、同日も頸部にしこりがあり腰痛があったものの、いずれも神経根症状とは認められず、同月一四日には腰痛はほとんど軽快しており、上腕二頭筋反射、上腕三頭筋反射、橈骨反射とも正常であり、知覚障害もなく、同日から理学療法を開始されたこと、以後同医院では原告に対しリハビリが続けられたのみで、原告は両手の発汗を訴えたものの、同年六月一日には頸部痛も軽快傾向となったこと、原告は、以後、大きな変化がないまま同病院への通院を続け、平成六年六月六日には症状固定の診断を受けたが、その後平成七年二月二五日まで同医院に通院したことが認められる。

以上の事実によると、原告が本件事故によって頸部・腰部捻挫の傷害を受けたことは認められるものの、原告の訴える症状は他覚的所見に乏しいものであり、事故後二週間のいわゆる急性期に事故当日を除くほかは僅かに二回しか通院していないことに照らすと、原告が本件事故によって受けた傷害は極めて軽微なものであったと推認され、原告の主張するような後遺障害が原告に生じたと認めることはできない。なお、甲第四号証の二、乙第二号証によれば、平成五年八月三日森田整形外科医院で行ったレントゲン検査の結果、第四腰椎横突起骨折があった可能性を窺わせる陰影が認められたことが認められるものの、右は確定的な診断ではないうえ、原告の訴える症状と符合するかも疑問であり、右認定を左右するものではない。

二  争点2(原告の損害)について

1  通院交通費 三六〇〇円(請求三万二四〇〇円)

甲第四号証の二及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故後、前記のとおり症状の軽快したと認められる平成五年六月一日までの間に合計一五日森田整形外科医院に通院したことが認められるが、それ以後の通院については本件事故との相当因果関係を認めるに足りる十分な証拠は見当たらない。そこで、右一五日分の通院交通費に限って本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、弁論の全趣旨によれば、原告は右通院に際し片道一二〇円を負担したものと認められるから、右合計は三六〇〇円となる。

2  休業損害 五万円(請求二一三万三九六二円)

原告は、本件事故により一三五日間休業を余儀なくされたと主張するが、原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故後一週間くらいはアルバイトを雇って自動車を運転させ、自分は助手席に乗車して配達場所を指示するなどし、その後は自ら自動車を運転して配達をしていたことが認められ、原告の右主張は理由がない。なお、原告が本件事故後一週間程度自動車の運転を見合わせたのはやむをえなかったものと認められるから、右アルバイトに支払った費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であるが、原告は、右アルバイトを雇うために八万円ぐらいを支払ったと供述するところ、右を裏付ける客観的な資料は見当たらないからこれを控え目に算定するのが相当であり、五万円の限度で右損害と認める。

3  逸失利益 〇円(請求六四一万七五二六円)

前記認定のとおり、本件事故によって原告に後遺障害が残ったものとは認められないから、逸失利益に関する原告の主張は理由がない。

4  慰藉料 一五万円(請求三五〇万円(通院一三〇万円、後遺障害二二〇万円))

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告が本件事故によって受けた精神的苦痛を慰藉するためには一五万円の慰藉料をもってするのが相当である。

三  結論

以上によれば、原告が本件事故によって受けた損害は二〇万三六〇〇円となるところ、原告が被告らから少なくとも四九万二五〇〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、原告は損害のすべてについててん補を受けたことになり、もはや被告らに対し損害の賠償を求めることはできないというべきである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

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